掲載日:2025年3月15日
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令和6年度 「伝単」―戦時下にまかれた印刷物
戦時下において敵軍の兵士や国民などの戦意喪失(逆に味方の戦意高揚の場合もあり)を目的に作成された印刷物を「伝単」と呼びました。情報戦で用いる目的で作成されたこの宣伝ビラは“紙の爆弾”とも称され、人目に付く多種多様なものを飛行機から大量に散布する方法がとられました。
日本への空襲が多くなる昭和19年(1944)から終戦を迎える昭和20年(1945)までの間には、空襲目標となった国内都市の上空から数多くの伝単が投下されたといわれています。宣伝文は日本語の文字を組み合わせて作成されており、見た人(拾った人)が心理的な衝撃を受けるように極めて巧妙な構成と図像(絵・装飾・意匠など)の伝単が数多く作成・印刷されました。
日本の空襲では数々の伝単がB29爆撃機による空襲予告(宣伝ビラ)として大量に散布されましたが、日本の防衛当局は拾った場合に警察への届け出を義務付けていました。このため、現在残されている伝単は当時大量にまかれたうちの一部にすぎない印刷物となっています。
目を引く多様な絵や図像の「伝単」
日本国内での空襲に際してまかれた宣伝ビラからは、見るものの感情に訴えかける多様な絵や図像などとともに、強い印象を与える日本語の文句とを組み合せたものが数多くあります。
多種多様な伝単からは、空襲下に置かれた日本の時局とともに、戦時中の情報・印象操作の様相がみてとれます。
注記:掲載の伝単はすべて中央区所蔵
衰亡の兆しを伝える桐の葉型の伝単
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木々の中でも早々に落葉するアオギリ(梧桐)の葉型を模した伝単。
「桐一葉」には、大きな桐葉が落ちる様子から秋の気配を察するという意味があり、ここから衰亡の兆しを感じとる「桐一葉落ちて天下の秋を知る」と詠まれた句も知られている。
この伝単が落ちてくることは「軍権必滅の凶兆」であることを意味し、「散りて悲哀ご不運ぞ積るのみ」と訴えかけ、春が再び来る前に行われる日本本土への爆撃について予告している。
大戦終局の未来を伝える伝単
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腕を使ってドイツを締め上げた様子と、左腕の手で日本が握られた状態を示す伝単。
昭和20年(1945)5月7日にドイツが無条件降伏したことを右腕で表現し、連合国側は左の手中にある日本に対して両腕を使って対応できることを訴えている。
この裏面には「戦は終りに近い」とあり、大戦自体が既に終局を迎えていることを告げている。
B29の日本空襲を予告する伝単
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日本本土へと飛来するおびただしいB29爆撃機の数とその様子を描き示した伝単。
この裏面には、欧州戦が終結したことを受けて、日本への攻撃に全力で集中する算段が整ったことが記されている。
特に、本土への空襲が頻繁に行われることや日本内地の軍需工場が崩壊することを告げている。
日本紙幣に似せた伝単
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あたかも日本紙幣の「拾圓札」であるかのような目を引く伝単。
戦時下のひっ迫した生活においては、上空からであれば紙幣が舞ってきたようにも思え、道端で見れば日本紙幣だと認識して手に取ってしまうことを狙ったもの。
紙幣印刷面の裏は、税金を浪費する日本の軍閥を批判する内容が記されている。
日本の軍閥を批判した伝単
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日本軍人の手を縄できつく縛り上げるように描いた伝単。
海軍服とみられる左の手と、陸軍服とみられる右の手を縛り、軍閥に対する痛烈な批判が記されている。
日本国民が拾うことを前提に、国家を救うことが最大の義務であることを訴えかけている。
日本の軍部指導者に訴える伝単
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日本軍部の指導者へ向けて各人の写真入りで訴えかけた伝単
各指導者たちに向けて、「諸君は、日本の国土、海域及び上空を防衛し得ると日本国民を信服させる事が出来るだらうか。」と問いかけている。
この裏面には、アメリカ側の勝利達成に向けた決意を告げた内容が記されている。
写真ニュース構成の伝単
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写真ニュースの体裁で日本への空襲やアメリカ軍の状況を伝える伝単。
戦況を伝える複数枚の時事写真と見出しや記事を組み合わせ、手に取った人が興味を引くような内容となっている。
神戸空襲や静岡空襲の写真とともに、グアム島で投降した日本兵や閑談する日米将校の様子まで記事化されており、内容の信ぴょう性を高めるような工夫がみられる。
自由(私権)享有を訴える伝単
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日本国民が抑制されている「四つの自由」を持つべきことを訴える伝単。
食卓に上る食事を描いた「欲望の自由」、新聞や書籍を描いた「言語の自由」、布告による抑圧された言動を描いた「圧制からの自由」、そして「恐怖からの自由」などを挿絵とともに説く。
この裏面には、日本が私権を有する自由な国家となることを訴えかけている。
ソ連の対日参戦と連合国の日本進攻を訴える伝単
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連合国による全面的な日本進攻が差し迫っていることを暗示する伝単。
地球の上に立つソ連兵が左側の朝鮮半島から対日参戦に歩み寄り、右側の太平洋から歩み寄るアメリカ兵と互いに「感激の握手」を交わし、両者間の眼下に捉えられた日本の立ち位置を示している。
この裏面には、美しき祖国日本を戦禍から救う必要があることを強く訴えている。
非力な日本防衛を訴える伝単
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銃後の国民が行う国土防衛は非力であることを説く伝単。
木枯らしにさらされながら、両手につるはしを持ち、あるいは竹やりを手に取って防衛に尽くそうとする日本国民の姿を描いている。
圧倒的な戦力で迫る総攻撃に対して、日本は今や「風前の灯」の状況にあることを伝えている。
無条件降伏を勧告する伝単
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日本が無条件降伏を受け入れることの意味と意義を説く伝単。
日本の陸海軍が無条件に降伏するまで攻撃の手を緩めることはなく、戦争が長引くほど日本の苦痛と困難が大きくなることを投げかけている。
オリーブの枝をくちばしに加えて飛ぶ「平和の象徴の白鳩」を描き、無条件降伏が日本の滅亡をまねくことにはならないことを伝えている。
お問い合わせ先
区民部地域振興課
〒104-8404 築地一丁目1番1号 本庁舎7階
電話:03-3546-5338
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