うなぎ喜代川(うなぎきよかわ)

掲載日:2023年7月20日

ページID:4250

ここから本文です。

うなぎ喜代川の画像
うなぎ喜代川

種別

国登録有形文化財(建造物)

所在地

日本橋小網町10番5号

広報紙コラム「区内の文化財」より(令和4年2月21日号)

東京都心部に位置する中央区には、各種企業の事業所や業務用に建てられたオフィスビル、飲食店・販売店などが入居する商業ビルが集中しています。中でも、日本橋地区には、近年の市街地再開発工事に伴って、大規模な商業施設が立ち並ぶようになり、江戸時代以来の商業地としての歴史・文化を継承しつつ、新たなにぎわいの創出に向けたまちづくりが進められています。
一方で、大通り(表通り)から路地へと足を踏み入れると、主としてファサード(建物正面のデザイン)部分に洋風意匠を持つ多様な看板建築や和風の町屋建築などが点在していることにも気付きます。こうした建物は、所在している地域やまち固有の景観を形成してきた歴史的な存在であるとともに、昭和初期の風情・情緒・たたずまいを醸し出しながらまちなみに彩りを添えています。
今回の文化財は、日本橋小網町の路地に面して立つ木造建造物「うなぎ喜代川」を取り上げます。この建物は、明治7年(1874)創業の老舗うなぎ料理店・喜代川の店舗として用いられており、昭和2年(1927)の竣工(しゅんこう)から今日に至るまで90年以上にわたって当該地での歴史を刻んでいます。なお、同店は文豪・谷崎潤一郎(1886~1965)や小説家の渡辺淳一(1933~2014)らの著名人にも愛された老舗として知られており、いくつかの作品にも登場しています。
日本橋小網町10番街区にある当該建物は、表通り(鎧橋(よろいばし)から新大橋通りにつながる通り)から路地を北に入り込んだ一角にあり、正面入口は路地に面して東向きにとられています。建物は木造2階建ての構造で、屋根には寄棟(よせむね)(寄せ合った棟〈傾斜した屋根面が交わる部分〉)と切妻(きりづま)(棟から軒桁(のきけた)に向かって二方向に傾斜を持つ屋根)の両方の屋根がみられる複合形式です。1階の外壁は、腰壁(こしかべ)を目透し(めすかし)(板の部材間に隙間を設けて張る)の縦板張りとし、その上部が土壁となっています。また、2階の外壁は、腰壁を押縁下見板張り(おしぶちしたみいたばり)(下見板〈横に張った羽目板〉の継ぎ目や端部を押縁〈細い材〉で押さえる)とし、その上部が漆喰(しっくい)塗り(消石灰・すさ・砂などを水で練り混ぜた下地塗り)です。
なお、建築形式については、草庵(そうあん)風茶室の意匠・手法などを取り入れて造られた「数寄屋(すきや)(造り)」の意匠が見られる木造建築物となっています。日本橋小網町を含む周辺エリアには、銅板・モルタル・タイルなどの耐火素材で装飾された昭和期の看板建築や和風の町家建築がいくつか点在していますが、うなぎ喜代川のような数寄屋風の意匠でまとめられた店舗併用住宅は極めて少なく、震災復興後の貴重な建物といえます。さらに、内部においても随所に繊細な数寄屋風の意匠が施されており、客間ごとに床の間の周り・違い棚・天井などの仕上げ材や構成を変えながら趣の異なるしつらえがみられ、非常に手の込んだ工夫が凝らされています。
平成26年(2014)には、歴史的建造物としての価値を維持するための保存措置(劣化補修)や耐震補強を図りながら、従来と同様の商業活動が維持できるように内部修繕工事も実施されており、良質な伝統木造建築の姿を留める希少な建物となっています。
中央区教育委員会 学芸員
増山一成

関連リンク

文化庁ホームページ(外部サイトへリンク)

お問い合わせ先

教育委員会事務局図書文化財課郷土資料館

〒104-0041 新富一丁目13番14号

電話:03-3551-2167

ファクス:03-3551-2712

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?