掲載日:2023年2月8日
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中央区民文化財102 清川玄道関係文書(きよかわげんどうかんけいもんじょ)
清川玄道関係文書(「容體書控」診断書様式の写し部分)
種別
区民有形文化財 古文書・古記録
所在地
新富一丁目13番14号 郷土資料館
員数
35点
年代
安政4年~明治23年
登録年月日
令和2年4月1日
登録基準
〔4〕
- ロ、日記、記録類(絵画、系図類を含む)は、その原本又はこれに準ずる写本で歴史上重要と認められるもの
- ニ、区の歴史、文化に関係の深いもの
広報紙コラム「区内の文化財」より(令和4年3月21日号掲載)
薬効成分が認められる天然の産物(植物・動物・鉱物などの一部分)を精製せずに用いた薬は「生薬(しょうやく)」と呼ばれています。また、定量の生薬を複数組み合わせて効果を高めた医薬品の総称を「漢方薬」と呼び、日本独自の伝統医学「漢方(漢方医学)」の中で処方され、発展してきた歴史があります。各人が持つ個別の体質・心身の状態・反応などに応じた診断や治療を行う漢方では、症状に合わせた生薬の配合を行い、副作用にも配慮した漢方薬が処方されるようです。
日本化された独自の漢方は、6世紀ごろに伝来した中国医学をベースに発展を遂げ、江戸時代中期にもたらされた西洋医学(蘭方)に対する名称として用いられました。本区には、豊前国中津藩奥平家(ぶぜんのくになかつはんおくだいらけ)の中屋敷(現在の明石町)において、前野良沢(中津藩医)・杉田玄白(小浜藩医)や蘭方医の中川淳庵(じゅんあん)・桂川甫周(ほしゅう)がオランダ語の解剖書解読を試み、安永3年(1774年)に『解体新書』が刊行された出来事があり、漢方・蘭方の双方に大きな影響を与えた旧跡が存在しています。なお、19世紀に入ると、蘭方が漢方を圧倒するようになり、明治7年(1874年)には西洋医学の習得が医師免許の条件となりましたが、医師による漢方の研究診療に関しての制限はなかったようです。
今回の文化財は、幕末から明治期にかけて本区(現在の銀座五丁目12番付近)に居住していた漢方医・清川玄道(5代目および6代目)に関わる資料です。安政4年(1857年)から明治40年(1907年)の間に作成された記録類が合計35点ほどあり、通常では目にすることができない当時の診療記録や日記類なども複数冊含まれています。
記録を作成した5代玄道(1838年から1886年)は、伊沢蘭軒(らんけん)(考証学に精通した備後国(びんごのくに)福山藩医・儒官)の二子(長男の榛軒(しんけん)と次男の柏軒(はっけん))に師事し、元治(げんじ)元年(1864年)に医家である伊沢家の家督を相続しています。また、明治12年(1879年)には、漢方医・浅田宗伯(そうはく)が西洋医学に対抗して結社した温知社(おんちしゃ)(漢方存続・復興運動の活動母体)の運動にも携わりました。6代玄道(1863年から1940年)は、明治9年(1876年)に5代玄道の門下に入るとともに、漢方医・森枳園(きえん)(伊沢蘭軒に師事した名高い「蘭門五哲(らんもんごてつ)」〈3代清川玄道・岡西玄亭(げんてい)・渋江抽斎(ちゅうさい)・森枳園・山田椿庭(ちんてい)〉の一人)にも学び、先代の没後に家督を継いでいます。
関係文書の中でも特筆すべきものは、簿冊(縦帳)表題に「容體書控(ようだいしょひかえ)」と記された明治9年から明治40年までの合計6冊の記録です。これらの記録は、診察した患者の所見(主に死亡診断)に関わる記載が認められるもので、患者の居住地・職業・身分・氏名・生年月日とともに、死因・発病日時・死亡日時に関する内容が細かく記されています。なお、患者の病因や死因については、漢方独特の難解な用語で記されているものの、明治期に流行した肺結核に当たる「肺痿(はいい)」や細菌性感染症のコレラ「虎烈剌病(これらびょう)」といった病名を確認することができます。また、多岐にわたる患者の職業(荒物渡世(あらものとせい)・女髪結渡世(おんなかみゆいとせい)・質渡世・人力車夫・大工職・電信工夫・古着商・湯屋など)の他に、士族や華族の診断記録なども確認することができます。こうした記録からは、本区に居住した漢方医・清川玄道の診療活動とともに、当時のはやり病や症状、そして西洋医学(洋薬)の採用が進められた明治期における漢方医学の役割が垣間見られます。
中央区教育委員会 学芸員
増山一成
お問い合わせ先
教育委員会事務局 図書文化財課 郷土資料館
〒104-0041
中央区新富一丁目13-14
電話:03-3551-2167 ファックス:03-3551-2712
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