掲載日:2023年1月18日
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戦時下の市民生活
赤ちゃんと防空壕
シナリオ
パシャリ!
戦争がはじまる前、銀座の町はたくさんの人でにぎわっています。
若いお母さんとお父さんは、銀座を通って、勝鬨橋をめざしています。
このころ、勝鬨橋は開いたり閉じたりするので、とても有名だったのです。
ぼーん、ぼーん。
時計が夜の7時をしらせます。
お母さん『昭和十九年、わたしたちの住んでいる月島のあたりにも、たびたび空襲があるようになりました。戦争がきびしくなるにつれ食料も手に入らなくなってきました』
ぐううう。
はじめくんのおなかがなります。
お母さん『さ、お母さんの分もお食べ』
はじめ『わあい』
はじめくんはうれしそうに手を出します。
お父さん『いかん。はじめは我慢しない。母さんは、お腹にあかちゃんがいるんだぞ』
はじめくんはしょんぼりです。
けれども、お母さんはきちんと栄養をとらなければいけないのです。
朝、すずめがちゅんちゅんないています。
お父さん『消火―っ!』
お父さんがかけごえをかけると、バケツリレーがはじまります。
お母さん「夫は、地域の警防団に入っていました。空襲で街が燃えたときすぐ火を消すための訓練が、日々、行われていました」
防火用水に火はたきを突っ込んで、たき火を消す練習をしています。
お母さん「火事になったときは逃げてはいけない、爆弾の火もはたきで消す。そんな無茶な練習を、何度も何度も繰り返していました」
男の人たちが穴を掘っている横で、お母さんたちが重い土を運んでいます。
お母さん「空襲のときに隠れる『防空壕』は、ご近所の人たちが助け合ってあちこちに掘られていました」
お母さん『うっ……』
近所のおばさん『あんた、無理しちゃいけないよ。丈夫な子を産むのがお国のためなんだからさ』
お母さん『ありがとう、大丈夫よ……』
けれども、おなかの大きなお母さんには、たいへんな仕事なのでした。
昭和20年3月9日。
お父さん『じゃあ、行ってくるよ』
お母さん「この日、夫は仕事の都合で、月島のわが家から、隅田川を越えて深川のほうへ行きました」
ぼーん。
時計が午後1時のかねを打ちます。
わたし「うっ!はじめ……はじめ!」
お母さんはとても苦しそうです。
お母さん『おとなりのね、山田さん、山田さんのおばちゃんを呼んできてくれるかい』
はじめ『お母ちゃん、どうしたの?』
お母さん『赤ちゃんよ……赤ちゃんがね、産まれそうなのよ』
はじめ『えっ!』
はじめくんはおとなりの家に走っていきました。
えーん、えーん。
赤ちゃんのなきごえが聞こえてきました。
はじめくんはおそるおそる部屋をのぞきます。
山田さん『女の子だよ。はじめちゃんはおにいちゃんだねえ』
はじめくんに妹ができたのです。
お母さんは赤ちゃんを抱いて、とてもしあわせそうなのでした。
夜になっても、お父さんは仕事から帰ってきません。
赤ちゃんはお母さんのとなりで、すやすやと眠っているのでした。ところが――
ウィーン、ウィーン!
くーしゅーけーほー、はつれー!
空襲がはじまったのです。
お母さん『はじめ!はじめ!』
ドン、ドン!
月島の基地から、アメリカの飛行機にむかって高射砲が撃たれます。
男の人の声『てっきらいしゅうー!』
男の人の声『だめだ!こっちの攻撃がとどいてないぞ!』
たくさんの爆弾や焼夷弾が、どんどん町に落とされます。
お母さんはおそろしくて、立ちすくんでしまいます。
お母さん『ああ……』
山田さん『あんた!』
おとなりの山田さんが、お母さんの手をしっかりにぎってくれたのです。
防空壕の中で、お母さんはお父さんのことが心配でしかたがないのでした。
お母さん『あなた……』
次の日の朝。
深川のほうは一面の焼け野原で、まだけむりがあがっています。
その中を、とぼとぼと歩いてくる男の人がいます。
玄関ががらがらと開いて、くずれこむようにお父さんが帰ってきました。
お母さん『あなた……!』
お父さんは傷だらけ、服はぜんしんぼろぼろで、びしょぬれです。
お父さん『深川は、何もかも燃えてしまったよ……川に飛び込んで、一晩中浮かんでいたんだ……』
お母さん『よかった……よかった……』
けれども、お父さんはまだおそろしさに震えています。
そこへ――
えーん、えーん。
赤ちゃんのなきごえがしました。
はじめくんが赤ちゃんを抱いてやってきたのです。
赤ちゃんの声を聞いて、お父さんははっとしました。
お父さん『おい……おい!産まれたのか!』
お父さんとお母さんは、はじめくんと赤ちゃんを抱きしめて、家族がふたたびそろったことのうれしさを、いつまでもかみしめているのでした。
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