掲載日:2023年1月18日
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学童疎開
次郎の疎開
シナリオ
パシャッ、パシャッ。
戦争がはじまる前、次郎くんの家族が、日本橋のあたりを通っています。
写真屋さんのおじさんが、次郎くんたちの写真をとったのでした。
昭和19年11月。
飛行機からたくさんの爆弾や焼夷弾が落とされます。
次郎「戦争がひどくなって、東京でも空襲があるようになった。」
数か月前。
次郎くんの家は、横山町でお店をしています。
そのお店の前で、リュックをしょった次郎くんがぐずっています。
次郎『ねえ、どうして兄ちゃんは行かないの?』
お父さん『言ったろう。太郎はもう中学生だから、お国のために働かなきゃいけないんだ』
お母さん『お父さんもお母さんも江戸っ子だからねぇ。うちも田舎に親戚があれば……』
太郎『学校のみんなと行くんだから、遠足みたいでいいじゃないか。でも、次郎はおねしょするからなあ』
次郎『おねしょなんかするもんか!』
次郎くんたちは学校にあつまりました。
次郎「ボクは学校のみんなと一緒に、日本橋のうちから埼玉のほうへ、疎開することになった。「疎開」っていうのは、空襲を受けないように大きな町から地方に避難することなんだ。」
いよいよ次郎くんたちが出発します。
お母さん『次郎……』
思わず駆けよろうとするお母さんを、太郎お兄さんがとめました。
太郎『駄目だよ。見送りは校門までと決まってるじゃないか』
お母さん『……戦争は、いやだねぇ』
次郎くんたちは汽車に乗って、家族の住む東京から、とおくはなれていったのでした。
ぴーひょろろ。
山に住む鳥がないています。
次郎くんたちは、先生につれられて、古くて大きなお寺にやってきたのでした。
ぎしぎしっ。
戸が開くと、おばけのようなおしょうさんが、ぬぅっと手まねきしています。
おしょうさん『遠いところを、よく来ましたなあ』
次郎『ひええっ』
次郎くんたちはぎょっとしました。
けれども次の瞬間、お寺から甘いにおいがただよってきました。
次郎『ん?いいにおい……』
近所のおばさんたちがふかしイモを用意していてくれたのです。
おばさんたち『さあ、たーんとお食べ』
子どもたち『わあい!』
おなかをすかせたこどもたちはおおよろこびです。
おしょうさんはそんなこどもたちを見て、わっはっはと笑いました。
コンコンコン。
授業がはじまる合図のかねがならされます。
次郎「僕たち疎開児童は、お寺の近くの学校で、地元の子供たちと一緒に勉強させてもらうことになった」
次郎くんはとなりの席の地元の子に、こっそりと聞きました。
次郎『ねえ、どうして帽子をとらないの?』
すると、その子は、にやっと笑っていうのです。
地元の子『みんなにシラミをうつさないためさ!』
その子があたまをボリボリかくと、粉のようにシラミが飛ぶのです。
次郎『ひっ』
夕方。
学校からかえる次郎くんたちの前に、地元のガキ大将が立ちはだかります。
ガキ大将『おい、疎開!』
それは次郎くんのとなりの席の子だったのです。
ガキ大将『おい、お前』
地元の子たちは、次郎くんをつかまえてジロジロ見るのです。
自分たちとちがう東京の子が、めずらしいやらおもしろいやらで、見るのです。
地元の子『へーえ、なまっちろいやつ』
地元の子『新しい服きてやがる』
ガキ大将『ふん――やい疎開。お前、相撲なんかできないんだろう』
次郎『そんなことあるか!』
わいわいがやがや、こどもたちがあつまっています。
次郎くんがガキ大将と相撲で勝負をするのです。
はっけよーい、のこったのこった!
いよいよ相撲がはじまります。
のこったのこった!
次郎くんとガキ大将は、あっちにいったり、こっちにいったり。
もう地元の子も、疎開の子も、どっちを応援しているのかわかりません。
次郎『ええーい!』
次郎くんがガキ大将を投げ飛ばしました!
地元の子『いいぞ、疎開ーっ!』
キイィーッ!
そのとき、自転車に乗った先生がやってきました。
先生『こらーっ、何をしとるかーっ!』
けんかをしていると思って怒っているのです。
ガキ大将『先生だ!逃げろ疎開!』
次郎くんとガキ大将は、笑いながらいっしょに逃げるのでした。
昭和20年3月9日。
みんなが寝しずまった夜、次郎くんがそろりとぬけだします。
ミシリミシリと廊下がなります。
次郎くんはお手洗いにいきたいのです。
ところががちゃりと戸を開けると、暗いボットン便所の中では、たくさんの虫がうごめいています。
次郎『ひええ……』
それでも用はすまさないといけません。
じょぼじょぼじょぼ。
勇気をだしてどうにかボットン便所を使えた次郎くんは、ふと、窓の外にでたまん丸の月を見たのです。
あの大きなお月さまは、東京の家からも見えるのかな。
次郎くんは、お父さんやお母さん、太郎お兄さんのことを思い出しました。
次郎くんがすやすやと眠った、その同じ時間――
横山町の家は空襲の炎で燃えあがり、お店の看板も焼け落ちて、その下にはお母さんが、ぐったりと倒れていたのでした。
けれども何も知らない次郎くんは、とおく離れた布団の中で、ただなつかしいお母さんを夢に見て、「お母さん」としあわせそうに寝言をいったのでした。
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