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「区のおしらせ ちゅうおう」 令和3年10月21日号

区内の文化財

江戸屋店舗兼住宅

国登録有形文化財 建造物 日本橋大伝馬町2-16
江戸屋店舗兼住宅
▲江戸屋店舗兼住宅

中央区内には、明治期から大正・昭和(特に戦前)期に建てられた歴史的な建造物が散在しています。特に、日本の伝統的な木造建築と西洋から導入された建築・意匠などが融合したような建物を目にすることが多いかもしれません。これらは、一般的に時代的な限定性を伴って「近代建築」などと称されますが、建物を成り立たせている個々の技術・様式・材料・意匠といった要素は実にさまざまです。
近代建築といっても、鉄筋コンクリート構造のビル建築(3階以上の中層建築物で西洋の建築思想が反映されているケースが多い)もあれば、町家建築の正面を近代的に装飾した多種多様な看板建築(表側が銅板・モルタル・タイル・スレートなどで覆われているケースが多い)などもみられます。もちろん、伝統的な工法・意匠で建てられた木造の町家建築(本区には大工棟梁・左官などの職人たちが手掛けた商家が多い)もあります。
今回の文化財は、近代建築の中でも特徴的な商家のファサードを持つ日本橋大伝馬町に立つ看板建築「江戸屋店舗兼住宅」です。この建物は、関東大震災後の復興期に建てられた木造2階建ての店舗兼住宅で、大正13年(1924)の竣工(しゅんこう)から間もなく100年を迎えようとしています。建物は、旧奥州・日光街道に当たる大伝馬本町通り(道路愛称)に面しており、平成22年(2010)には長寿命化に向けた耐震補強と内外部の改修工事を行い、従来と同様の商業店舗を維持する措置がとられました。
商業地として栄えた歴史あるこの旧街道沿いは、江戸時代の錦絵にも数多くの商家が立ち並んでいた様子が描かれています。そして、江戸刷毛(はけ)・ブラシ類の製造販売を営む株式会社江戸屋は、享保(きょうほう)3年(1718)の創業以来この目抜き通りに店を張ってきた老舗(しにせ)の一つです。大正末年に再建された建物には、創業から300年以上の歴史を有する老舗でありながら、当時の大工棟梁・職人が手掛けたモダンで斬新的なデザインが見てとれます。
建物の間口は6.2メートル、奥行きは間口の3倍以上(19.6メートル)もあり、商業店舗としての構造上の特徴(1階は店舗・事務所・倉庫、2階は倉庫・居室など)が表れています。看板建築の特徴である建物正面は、人造石洗出し(じんぞうせきあらいだし)仕上げ(セメント〈石灰類〉に天然の玉石などを練り合わせた後、表面のセメントを洗い流すと骨材が表れて仕上げ面が天然石のように見える仕上げ)とし、刷毛を表現した6本の細長い棒状意匠が窓の左右に施されています。
また、1階の庇(ひさし)部分にはコーニス(水平に形作られた突起部)を施すことによって、水平線を強調した古典的な様式のデザインが採用されています。さらに、窓上のまぐさ(窓の開口の上部に設けた水平材)に目を凝らすと、合計12匹のフクロウ(苦労せず福を呼ぶ「不苦労(ふくろう)」、労を惜しまない「福労(ふくろう)」などの意味)をかたどったレリーフ(浮き彫り)が施されていることにも気付きます。
当時の職人が自由な解釈で意匠化したこれらのデザインは、江戸刷毛の老舗としての歴史と伝統を建物正面に表現しつつ、商家の繁栄と心意気を感じさせるユニークなものとなっています。上質な刷毛のように、しなやかで柔軟な造形を持つファサードは、今日に続く老舗商家の姿勢を示す顔(看板)ともいえるでしょう。

中央区教育委員会 学芸員
増山一成

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